キャッシュレス店と法定通貨とビットコイン
中米の国、エルサルバドルがビットコインを法定通貨に採用しました。
ビットコイン、法定通貨に 世界初、不安の声も―エルサルバドル:時事ドットコム (jiji.com)
エルサルバドルはもともと、米ドルも法定通貨で、法定通貨が追加された形になります。
ですから、ビッドコインしか使えない国になったというのは誤りです。
さて、法定通貨って何でしょうね。
それは、債務の弁済に法定通貨を使ったとき、債権者は拒否できないという意味を持ちます。
例えば、日本において、武山くんがAさんに100万円を貸した。
Aさんが武山くんに100万円弁済する(返す)とき、1万円札100枚を持っていきました。
武山くんが「ドルで返してほしい」といっても、それは意味をなしません。
日本の法定通貨は「円」ですから、Aさんは円で武山くんに弁済できるわけです。
なお、紙幣は何枚でも使うことができますが、硬貨は通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律で1種類につき上限20枚しか使えません。
じゃあ最近はやりのキャッシュレス店は合法か?という話になってきます。
東京の六本木にAFURIというちょっと有名なラーメン屋さんがありますが(他の店舗もあります)、そこは硬貨や紙幣が使えないキャッシュレス店舗です。
(写真はAFURIのつけ麺です)
これは違法かというとそうではないです。
一度契約が成立した場合に、その支払いに法定通貨が使えることは法律で決められていますが、
契約成立前の話は別です。
キャッシュレス店の場合、たいていお店に「キャッシュレス店」という張り紙がはってあって、券売機でキャッシュレスで
食券を購入することになっています。
そして、食券購入時が契約成立時となります。
つまり、契約成立と同時にお金を(キャッシュレスで)払っているので、そのあとに現金で払うという場面が存在しないのです。
というわけでキャッシュレス店は合法になります。
では、本題のエルサルバドルの話。
エルサルバドルがビットコインを法定通貨に採用したということは、債務の弁済にビットコインを使っても債権者は拒否できないということになります。
しかし、ビットコインの支払いを受けるには端末が必要だったりします。
現地では「使い方を知らない」などの混乱も起きているようです。
また、政府は、公式アプリを入れた場合、キャッシュをプレゼントするキャンペーンなどもやっているようです。
実は、エルサルバドルがビットコインを法定通貨に採用した背景には、海外送金の多さがあるそうです。
エルサルバドルは小さい国で、人口は600万人ほどですが、そのうち半数が海外に住んでいるそうです。
海外送金の回数がたくさんあり、手数料もかなりの額になっている。
ビットコインの送金だと、米ドルの送金よりも手数料が安くすむので、ビットコインを法定通貨に採用していたという事情もあるようです。
で、この話題、経済にまで目を向けると、興味深い話がでてきます。
日本政府(正確にいうと日本銀行)は、円の供給量を調整することで、ある程度は円とドルの為替レートに介入することができます。
しかし、エルサルバドルは自国建ての通貨を持っていない。
米ドル1つが法定通貨の場合、為替介入はほとんど無理だったでしょうが、法定通貨が2つになると、例えば米ドルを売ってビットコインを買うというオペレーションが可能なのでは?という考えもでてきます(もちろん現実的には、エルサルバドルの経済規模が小さすぎてできないでしょうが)。
このあたりの話も含めて、youtubeでも解説していますので、ぜひご覧ください。
新橋虎ノ門法律事務所 共同代表弁護士 武山茂樹