株主代表訴訟において弁護士費用を損害として請求することの可否
判例タイムズ1524号で紹介された裁判例です(福岡高裁令和5年7月20日判決)。
本件は、不動産の賃貸などを行う同族会社(特例有限会社)において、取締役である妹が、代表取締役である兄に対し、株主総会決議等を経ることなく役員報酬を増額受領し、会社に損害を生じさせたとして提起した株主代表訴訟です。
裁判所は、支払いの根拠なく支給された役員報酬分1320万円について会社の損害として認容しましたが、妹側が主張した弁護士費用については損害と認めませんでした。
会社法では、株主代表訴訟を提起した株主は、同訴訟の勝訴(一部勝訴を含む。)判決が確定した場合に、会社に対し、支出した弁護士費用の額の範囲内で相当と認められる額の支払を請求することができると解されることから(会社法852条1項)、前もって妹自らが弁護士に依頼した報酬相当額を会社に生じる損害として請求したという訳です。
会社法
(費用等の請求)
第852条1項 責任追及等の訴えを提起した株主等が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合において、当該責任追及等の訴えに係る訴訟に関し、必要な費用(訴訟費用を除く。)を支出したとき又は弁護士、弁護士法人若しくは弁護士・外国法事務弁護士共同法人に報酬を支払うべきときは、当該株式会社等に対し、その費用の額の範囲内又はその報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払を請求することができる。
判決は、本件の株主代表訴訟において弁護士に依頼して訴訟を追行しているのは妹であって本件会社ではないから、本件会社に弁護士費用の損害が発生したとは認められないとし、また、株主代表訴訟の勝訴判決が確定する前に、本件会社に対し、同費用の相当額の支払を請求し得る立場にはないというべきであり、本件会社に同確定前の時点で、同費用に関する損害が発生していると評価することは、困難であるとしています。