新型コロナの影響で売上が激減したテナントが支払うべき賃料額は緊急事態宣言下でも減少しない
東京地判2021/7/20金商1629号52頁で控訴なく確定しました。法律上は仕方ないでしょうが、たとえ国による家賃支援があってもそれはあくまで借入金であることを踏まえると、賃借人のリスクにくらべて賃貸人のリスクが低すぎるのではという、雑駁な感想をいだきました。
事例は、創作和食ダイニングとして借りていた店舗について、新型コロナの影響により売上自体が激減し利益は従前の90%も減少したというものです。さらに、2020/4/6~2020/5/6の緊急事態宣言下では、そもそも飲食店としての使用ができませんでした。なお訴訟対象の契約は賃貸借でなく転貸借です。
賃借人は、貸主は物理的には空間を提供しているけれども、経済的には90%物件が使用収益できないのと同視できるから、改正前民法611条1項の類推適用により、賃借人に帰責事由のない一部利用不可として危険負担の債務者主義により賃料減額すべきであるし、さらに、少なくとも緊急事態宣言下では経済的に飲食店としての空間提供ができなかったのだから、その間の賃料は100%支払う義務がないはずと主張してきました。
これに対し、裁判所は「賃貸人は賃借人に対し物件を使用収益させる義務はあるものの(改正前民法601条)、賃貸人が賃借人に物件の利用を物理的に制限したりしてはいないから、使用収益はさせている。そして、賃貸人は賃借人に物件の利用により利益を得させるまでの義務を負っているわけではない。そうすると、新型コロナの影響により、テナントが営む飲食店の利益が激減した事実があっても、その現象の割合に応じて賃料支払債務が一部減少したと解することはできない。緊急事態宣言がだされたことをもって、物件の利用が不可能になったわけではないのだから、支払うべき賃料は減るものではない」としました。