ファクタリング取引を行う業者の預金口座に係る取引の停止等の措置を求めた弁護士の措置の適法性
判例時報2602号で紹介された裁判例です(東京地裁令和5年1月18日判決)。
本件弁護士(被告)が、金融機関に対し、ファクタリング取引(債権を期日前に一定の手数料を徴収して買い取る取引)を行っていた原告がいわゆるヤミ金融業者であるなどとして、原告名義の預金口座について、いわゆる振込詐欺救済法3条1項に規定する預金口座等の不正な利用に関する情報の提供及び預金取引の停止等を求める要請(情報提供等)を行ったことにつき、原告が、本件預金口座は振込詐欺救済法の適用対象ではなく、被告らが本件情報提供等を行ったことには法情報調査及び事実調査を怠った過失があるなどとして、被告らに対し、不法行為に基づき、損害金964万余の損害賠償請求したという事案です。
振込詐欺防止法において、口座凍結の対象とされているのは、「犯罪利用預金口座等」とされているので、まっとうにファクタリング取引であればこれには当たらなということになりますが、本件にいおいて、裁判所は、つぎのとおり指摘して、本件情報提供等を行った当時、被告ら弁護士が本件各取引の実質が金銭の貸付けに該当するものと解する相当の根拠があったといえ、被告らが原告をヤミ金融業者であると判断し、本件情報提供等を行ったことについて、法情報調査及び事実調査を怠った過失があるということはできないとしました(請求棄却)。
・本件情報提供等が行われた当時、ウェブサイトにおいて、ファクタリング取引や売掛債権の売買契約につき、①譲受人に償還請求権や買戻請求権が付与されている場合、②債権譲渡について債務者への通知や承諾の必要がない場合、③債権の売主が譲受人から当該債権を回収する業務の委託を受けて債務者から回収した金員を譲受人に支払う仕組みになっている場合などは、ファクタリング取引を装ったヤミ金融の疑いがあると注意喚起していた。
・被告らが本件情報提供等を行った当時、ファクタリング取引について、いわゆるファクタリング業者(ファクタリング取引を業とする者)が譲渡された債権の回収不能リスクをほとんど負っていないことなどを指摘し、貸金業法や出資法やにおける貸付けに該当する旨の判示をする裁判例が複数存在していた。
・裁判例が重視する債権の回収不能リスクの所在についてみると、本件基本契約及び本件委任契約においては、譲渡された債権が取立不能になったとしても、(原告との間でファクタリング契約を締結し、被告ら弁護士に債務整理の委任を行った)A社は原告に対して何らの責任を負わないとされ、本件譲渡担保契約によってA社が有する債権に設定される譲渡担保は、取立不能になった債権の支払について保全するものではないとされている。そうすると、本件各取引においては、原告が譲渡された債権についてある程度の回収不能リスクを負っているものと解される。
しかしながら、他方で、本件基本契約又は本件委任契約においては、A社は、原告に対し、①個別契約締結日及び各買取日において、債務者の債務不履行又は解除事由が発生しておらず、期限の利益喪失事由が発生していないこと、債務者に何らの抗弁事由が発生しておらず、そのおそれもないこと、債務者が支払停止の状態になく、破産手続開始等の申立てがされておらず、A社の知り得る範囲でこれらの手続が開始する原因が発生していないことなどについて表明保証することとされており、また、②債権譲渡後においても、債務者に債務不履行や取立不能のおそれが生じたり破綻のリスクが生じたりした場合には、遅滞なくその事実を報告するものとされ、さらに、③これらに違反した場合には、適格債権を額面金額で買い戻し、又は原告の損害を賠償する義務を負い、その損害賠償請求権を担保するためにA社が現在及び将来有する債権を譲渡担保に供するものとされている。
そうすると、本件各契約においては、原告に譲渡された債権をその債務者から回収することができなかったとしても、原告は、A社に表明保証又は報告義務違反がある場合には、このことを理由に、A社又は譲渡担保が設定された債権の債務者から、債権を回収することができることになる。とりわけ、本件基本契約では、A社は、債務者が支払停止の状態になく、破産手続開始等の申立てがされていないことのみならず、「A社の知り得る範囲でこれらの手続が開始する原因が発生していないこと」についても表明保証することとされているところ、本件各取引における各個別契約の締結日から原告に譲渡された債権の弁済期までの期間はいずれも1か月にも満たないものであるから、上記文言の解釈及び運用次第では、上記債権が債務者から回収不能となったほとんどの場合において、原告は、表明保証違反を理由として、A社又は譲渡担保が設定された債権の債務者から、債権を回収することが可能となる。
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