間接交流を認めた原審判を取り消し審理を差し戻した事例
判例タイムズ1524号で紹介された事例です(東京高裁令和5年11月30日決定)。
本件事案は、平成31年に婚姻し、令和2年に未成年者をもうけた夫婦間において、夫(抗告人)が、妻(相手方)であるに対し、面会交流を求めたという事案です(令和4年申立て)。
原審(家裁)は、抗告人と未成年者との面会交流は、間接交流とするのが相当であるとして、相手方に対し、①当分の間、年に2回(毎年7月及び12月頃)、未成年者の成長の過程を記録した写真及び生活の状況を記した書面を抗告人に送付すること、②抗告人が、相手方の指定する代理人を経由して、プレゼント等を送付することを妨げないことを命じる審判(原審判)をしました。
原審が間接交流に留めた事情としては、
①未成年者は、保育園に入園当初は、表情が硬く、集団生活に戸惑う様子が見られたこと
②家裁調査官による家庭訪問調査においても、未成年者は、初対面の家裁調査官に対して人見知りをして、短時間の滞在では十分に慣れることが難しく、母である相手方から離れようとしない様子が認められたこと
③未成年者は、日常的に夜中に泣いて目を覚まし、一度も目を覚まさずに寝ていることの方が少ない状況であり、相手方は、精神的にも体力的にも余裕があるとは言えないこと
④抗告人は、相手方の非難に強く反発して感情的になり、声が大きくなることがあったため、相手方の抗告人に対する不信感は根強いこと
⑤抗告人は、未成年者が出生してから未成年者に接触した期間は短く、別居後、抗告人と未成年者の交流は行われていないことなどがあげられており、高裁も、これらの事情に鑑みると、未成年者は慣れない相手に対して不安を感じやすいといった特徴がうかがわれ、未成年者の負担を最小限に留めつつ面会交流を実施するためには、相手方の協力を得ながら、未成年者が抗告人に徐々に慣れるようにする手順を踏むことが必要であると考えられ、相手方が、こうした手順を踏まないまま、抗告人と未成年者との直接の面会交流に協力することにつき、消極的な態度を示していることについては、一定程度理解できるところであるとしています。
しかし、次のように指摘して、未成年者において、相手方と離れて抗告人と直接の面会交流を行うことができるかどうかについて、子の福祉の観点から、慎重に検討判断する必要があるというべきであり、本件においては、抗告人と未成年者との試行的面会交流の実施を積極的に検討し、その結果をも踏まえて、直接の面会交流の可否や、直接又は間接の面会交流の具体的方法、頻度、内容等を検討して定める必要があるというべきであるとして審理を差し戻しています。
・父親が未成年者の成長を知ることは、父親にとって重要であるばかりでなく、未成年者にとっても、父親が自分に関心を示してくれていることを実感させることは、未成年者の健全な成長につながるというべきである。
・抗告人は、第三者機関を利用して未成年者と直接の面会交流を行うことを希望し、既に第三者機関に相談し、当該第三者機関より支援が可能である旨の回答を得ているほか、第三者機関から面会交流を行うための具体的なルールに関する説明を受けていることが認められ、抗告人と未成年者が第三者機関を利用して直接の面会交流をする際、必要となる相手方の協力は、一定程度限定されたものになると考えられる。
・また、未成年者には、人見知りの傾向があり、新規の刺激から影響を受け易いといった傾向があるが、未成年者が令和3年7月以降現在に至るまで保育園に通園していることに照らせば、上記の傾向は、周囲の配慮により克服でき、あるいは成長に伴い自然と収まるものと考えられる。
・さらに、前記認定事実及び一件記録によれば、相手方は、抗告人に家事や育児に関する配慮が足りないと不満を持ち、抗告人も、相手方の非難に反発して感情的になり、声が大きくなることがあったことが認められるものの、抗告人が相手方に対し、直接の暴力に及んだとか、合理的な理由のない暴言ないし継続的ないし支配的な精神的暴力があったと認めることはできない。
・そうすると、相手方には、抗告人と未成年者が第三者機関を利用して直接の面会交流をすることに協力することが直ちに困難であると断じるに足りるだけの客観的かつ具体的な事情があると認めることはできない。仮に、直接の面会交流を実施することにより相手方の負担が主観的には増すとしても、相手方には監護補助者がいることをも考慮すれば、直接の面会交流の実施により、未成年者の福祉を害する程度にまで相手方の監護力が低下すると認めることはできない。
間接交流に留めた原審の判断を変更して直接交流を認めた事例 | 弁護士江木大輔のブログ