鑑定処分許可状に記載されたのとは別の医師が行った解剖手続きの適法性
判例タイムズ1524号で紹介された事案です(東京高裁令和6年3月6日判決)。
本件は、傷害致死事件の刑事事件において、捜査段階に行われた解剖手続きの適法性と解剖医の証言の証拠能力が争われたという事案です。
本件において、鑑定人を C 大学法医学講座の B 教授とする死体解剖の鑑定処分許可状が発付されていましたが、実際に解剖したのはA医師(助教)で、B教授は解剖に立ち会っていませんでした。
第一審判決は、B教授の責任において,A 医師に執刀させたものと認められ,A 医師が,B 教授が座長を務める法医学講座所属の当日の当番医師で,単独で死体解剖を執刀するのに必要十分な学識経験を有している本件においては,A 医師による解剖が違法であるとまではいえないと判断しました。
これに対して、控訴審判決は、C 大学法医学講座においては,同講座に属する複数の医師のうち,同講座教授である B教授が定めた当番の医師が解剖を行うこととなっており,B 教授以外の医師が解剖を執刀する場合であっても,B 教授を鑑定人として鑑定が嘱託されるのが通例とされており,本件解剖も,そのようにして B 教授が鑑定人とされた上で,A 医師が執刀することとなったものと認められると認定した上で、本件鑑定処分許可状の鑑定人欄には B 教授のみが記載されているのであるから,A 医師が行った本件解剖は,本件鑑定処分許可状によって許可されたものということはできないとし、このような運用は是正される必要がある(例えば,法医学講座の責任者に加えて実際に執刀する医師を鑑定人として鑑定処分許可状を請求することが考えられる。)と指摘しました。
その上で、本件を違法捜査に基づく証拠排除法則の問題と同様に解し、本件解剖の時点では,B 教授及び A 医師らに,そのような運用が許されないものであるとの認識はなく,令状主義を潜脱する意図もなかったことが明らかであること(念のため,本件鑑定処分許可状を請求した検察官にもそのような認識や意図はなかったと推認することができる。)、A 医師は,平成 24 年に医師免許を取得し,平成 26 年から1400 件程度の解剖執刀経験を有する医師であって,単独で解剖を執刀するのに十分な学識や経験を有していると認められることも踏まえると,本件解剖の手続に前述のような瑕疵があることは,A 医師の公判供述の証拠能力を否定する理由にならないというべきであると判示しています。
捜査段階の精神鑑定 面接せず鑑定書作成 裁判所「信用性低い」 | 弁護士江木大輔のブログ