インフレ・資産インフレと,人口動態・地政学の情勢
日経平均(日経225)株価の3月末終値は4万0369円44銭,昨年末の3万3464円17銭から3か月で6905.27円も上昇した(1年で1万2327円96銭上昇した)。また,先日公表された公示地価(令和6年1月1日時点)は27年ぶりに全用途平均で上昇,多くの地点でコロナ前の水準まで回復した。
私の事務所のあるマンション(31階建)では,近時,30階の165.35㎡の部屋が3億9800万円(㎡単価240万7015円)で売り出された。既に路線価(7月1日発表)は分譲時(平成23年)の約4倍になっている(バブル崩壊後のピークはコロナ前のR2年)。
今回発表の公示地価でも,茶屋町は8.2%上昇してコロナ前のピークに近づいた。事務所マンション分譲の平成23年対比で4倍以上になっている(下表)。
バブル崩壊を懸念する声も聞かれるが,1990年代の日本のバブル崩壊(※)や,2000年のITバブル崩壊(※※)とは,かなり状況が異なり,インフレ・資産インフレは続くと考えられる。
(※)1989年は冷戦が終結したが,現在は新冷戦と紛争の時代になり,真逆である(インフレは歴史的に見て戦時に進行し平時に収束する)。小さな共通点があるとすれば,日本において,1989年に金利自由化が一応の完成を見て規制金利時代が終わった点は,昨今の日銀がYCC(イールド・カーブ・コントロール,一種の金利統制)を終えた点と似ている。しかし,日銀の国債購入は続いており,より影響の大きい世界的な地政学的情勢は,1989年の真逆に近い。
(※※)2000年のITバブル崩壊は,1995年頃からのインターネットの爆発的普及に加えて,コンピューターの2000年問題に対応したシステム入替による「需要先食いの反動」が大きかった。現在のAIブームは始まったばかりで,パソコンやスマホも,企業システムも,AI対応はこれから本格化する見通しであり,システム入替による需要先食いや,その反動が出るのは,ずっと先と見られる。
以上のとおり,当面はインフレが続くと思われる。これは,少子化圧力を強める一因になる。下図のとおり,少子化は,ベビーブームからの反落期を除けば,資産インフレ期(若者の住宅取得が困難になった時期)に進んでいる(1973年の石油危機以降の大インフレ,1985年のプラザ合意以降の資産バブル,昨今のマンション価格高騰・・・2023年の出生率1.20前後/首都圏新築マンション平均価格1億円超え・・・下掲記事)。若者の住居費負担は,特に人口・若者が流入する首都圏で,婚姻・出産・育児を困難にしている。「子育ては社会全体で」という政策を加速しなければ,更なる少子化・非婚化が加速すると思われる。非婚化の進行により,「介護は社会全体で」という政策も加速するとみられる。
【参考記事】
2023年の出生数は▲5.8%減、出生率は1.20前後に低下へ|日本総研 (jri.co.jp)
23年の首都圏新築マンション平均価格、東京23区で初の1億円超え…最高価格は45億円 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)
上図のベビーブーム世代(1947~49生)は,今年(2024年)で75歳~77歳となり,年金財政を含む財政は一層,逼迫する。政府は年金・財政負担の実質的な軽減のため,インフレ的な政策(通貨価値を切り下げる政策)を続けざるを得ず,同時に就労終期の延長・年金支給開始の高年齢化も続きそうだ。個人でも,人生100年時代に備えて,65歳を過ぎても働く人が増えるだろう。就労終期の高年齢化は一層進む。65~69歳の男性就労率は2020年に60%を超えたが,男女計でも2021年に50%を超えた。
戦争とインフレの関係では,戦時・緊張期はインフレ,平和時は低インフレとなる。米中対立やウクライナ戦争,イスラエル・ガザ侵攻など,現在は新冷戦・戦争の時代となっており,根本的なインフレ圧力は当分続くだろう。
日本にとって,やや明るいのは,事実上の米中同盟(1971年頃~2016年頃)が,軍事的にはソ連(ロシア),経済的には日本を圧迫した1970年代以降の政策が,トランプ政権誕生の前後にブッシュ家の影響低下と共に終了し,米中覇権闘争の時代に入って,米国が強度の対日封じ込め政策(80年代~)を止めた点が挙げられる。現在の米国は対中封じ込め政策の強度を切り上げている。
もっとも,日本が「対中封じ込め」の先兵にされると,バイデン・ヌーランド・ソロス・ブレジンスキーらによる「対露封じ込め」の先兵にされたウクライナ国民のような悲劇になりかねない。米国(英米・アングロサクソン)の基本政策は,ユーラシア大陸の諸国を相互に対立・消耗させて,対抗勢力の出現を阻むことにある。日露戦争時の日本,日中戦争時の蒋介石政権,現在のゼレンスキー政権のように,英米のライバル出現阻止のために利用される捨て駒にだけは,なって欲しくない。