ふたり福島の海で~ある漁師親子の対話~DEARにっぽんNHK
2023/10/14放送された。福島県新地町の釣師浜漁港、ここは福島第一原発から50キロの位置にある。2023年の7月中旬のある日、常磐ものと言われる20種以上の魚が水揚げされていた。その中で評判なのが観音丸という船、船長の父親は15で漁師になってから魚を穫ることに魅了され続けてきた。現在は息子と漁に出る。息子もまた中学卒業後に漁師になり、現在は船の舵取りを任されている。
2023/8/8、親子は福島第一原発の処理水放出の時期を気にかけていた。本当に流すのかと怒りをほとばしさせる父と、流されるものは仕方ない流しても安全ではあるんだと徐々に理解を広めていくしかないと話す息子。
東京電力は福島第一原発の廃炉を行うために、有害物質を基準値以下に下げて処理水の放出を行うことを決定。風評被害に魚の市場価値の低下を懸念する父と、そのための対策はきちんとするんだろう、無条件賛成という立場ではないが絶対反対固辞でなく放出されることを前提に対策すべきだと主張する息子。
父は息子に反論する、東日本大震災によって魚の価格が下落したのを忘れたのかと。父は漁協で国の開いた公聴会でも放出絶対反対の立場を明言してきた。
ところで、息子もかつては処理水放出に強く反対していた。しかしネットで見た「漁師が反対すればするほど処理水が危険だとされてしまう」という意見を見た時に、その考えが揺らいだ。そして迎えた2023/8/22、福島第一原発の処理水放出が2日後にも開始されると報道された。反対運動を広言することは「そんな危険なものと思いながら、お前たちは釣ってるのか売ってるのか」、こういう批判に耐えながら漁師を続けてるのは自己矛盾ではないのか。それが息子が父とスタンスを異にする理由である。
息子のスタンスに怒りに声を荒げる父。父は国などと交わした「関係者の理解なしに処理水放出を行わない」という取り決めが破られたと憤った。とはいえ福島第一原発の廃炉は進めるべきという意見は父も息子も一致している。息子は「「じゃあ廃炉をすすめたとき、処理水をどこに放出すればよいのか、代わりの考えはあるのか」と尋ねる。父は「だから困っているんだ」とさらに声を荒らげてしまう。息子は、処理水放出が決まってしまった以上、反対一辺倒に終わらせず、処理水放出したうえで徹底した安全性をキープするための対策に漁師は傾注させるのが現実的だと主張する。
父は長年この太平洋で漁をしてきた。東日本大震災で弟を亡くしている。弟は津波から自分の船を救済しようと海に向かって行って亡くなった。弟にとって船は家族同然だったのだ。海は自分たちをつつむ母親なのだ。父はそんな弟が眠る海、自分たちをはぐくむ海を汚されるのは、自分の家族や自分の身体を汚されてるに等しく感じるのだ。多くの漁師にとって海が神聖視されるべき大切なものである。父は息子が生まれる直前に海に入り身を清めた、10月の水は冷たい。
2023/8/24処理水の放出が始まる日もこの親子は漁に出た。1時3分の海洋放出に対して、春雄さんは「自分を責める」と語る。その翌週、この親子を尋ねた、この時点で魚の価格は下がっていないが、このあと何年かしないとわからないだろうと語る父。他方、息子は周囲の漁師や魚を取り扱う関係者に声をかけ、魚の安全性を消費者に向けて自分たちでアピールしなくてはと話し合い、さらに父にもこの活動に加わってくれないかと頼む。処理水放出に関してぶつかることが多かったこの親子だが、ついに父は「どうにか魚の価値を高める努力はしなくては」と理解を示してくれた。処理水放出には30年ほどかかる見込みだというが、それを見届けたい、あと30年はだから元気で生きなければならないと父はトレーニングを始めた「漁師が海を見捨てて嫌いになったら終わり、どんな事があっても守っていきたい」