出産育休の取得による復職後の措置が均等法、介育法に定める不利益な取り扱いに該当するとされた事例
判例タイムズ1523号などで紹介された裁判例です(東京高裁令和5年4月27日判決)。
本件は、カード会社(被控訴人)の個人営業部の部長(営業管理職)であるチームリーダーとして勤務していた控訴人が、妊娠、出産、産前産後休業及び育児休業の取得を理由に、チームリーダーの役職を解かれたことなどが、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律9条3項及び育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律10条、被控訴人の就業規則等又は公序良俗(民法90条)に違反し人事権の濫用であって違法・無効であると主張して、地位確認や損害賠償を求めたという事案です。
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
第9条3項事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
(不利益取扱いの禁止)
第10条 事業主は、労働者が育児休業申出等(育児休業申出及び出生時育児休業申出をいう。以下同じ。)をし、若しくは育児休業をしたこと又は第九条の五第二項の規定による申出若しくは同条第四項の同意をしなかったことその他の同条第二項から第五項までの規定に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
第一審判決は請求を棄却しましたが、控訴審判決は、控訴人の主張を一部認めて慰謝料200万円の支払を命じています。
特徴的な判旨としては、「一般に、基本給や手当等の面において直ちに経済的な不利益を伴わない配置の変更であっても、業務の内容面において質が著しく低下し、将来のキャリア形成に影響を及ぼしかねないものについては、労働者に不利な影響をもたらす処遇に当たる」と指摘している点にあります。
そして、均等法及び育介法の趣旨及び目的に照らせば、女性労働者につき、妊娠、出産、産前休業の請求、産前産後の休業等を理由として、労働者につき、育児休業申出、育児休業等を理由として、上記のような不利益な配置の変更を行う事業主の措置は、原則として同各項の禁止する取扱いに当たるものと解されるが、当該労働者が当該措置により受ける有利な影響及び不利な影響の内容や程度、当該措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして、当該労働者につき自由な意思に基づいて当該措置を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき、又は事業主において当該労働者につき当該措置を執ることなく産前産後の休業から復帰させることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって、その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして、当該措置につき均等法9条3項又は育介法10条の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは、同各規定の禁止する取扱いに当たらないものと解するのが相当であるとし、本件における事情を具体的に検討しています。
例えば、復職した控訴人を部下を持たないアカウントマネージャーに配置した点について、つぎのとおり説示して、控訴人の妊娠、出産、育児休業等を理由とするものと認めています。
・控訴人の休業中に控訴人チームを消滅させたこと自体は、業務上の必要に基づくものであるから、控訴人をアカウントセールス部門のアカウントマネージャーにしたことも業務上の必要に基づくものということができるが、管理職であるバンド35の控訴人に一人の部下も付けずに新規販路の開拓業務やその後の電話営業を担当させることにした理由については、更に検討する必要があるところ、被控訴人のD副社長は、短時間勤務制度の利用予定等を確認した控訴人との面談において、控訴人に対し、チームリーダーは乳児を抱えて定時で帰宅することができる職務ではない旨を述べ、また、A副社長は、復職直前の控訴人に対し、控訴人の現状を考慮すると、自分でペースをハンドルできる仕事の方がよいと述べた上で、部下を持たないアカウントマネージャーとして新規販路の開拓等の業務を担当するよう命じ、その後、チームリーダーとされないことに不満を述べた控訴人に対し、控訴人は、妊娠後復職するまで1年半以上休んでいてブランクが長く、復職してからも休暇が多いから、チームリーダーとして適切ではない旨説明した。
・そうすると、被控訴人が復職した控訴人に一人の部下もつけないで上記業務をさせたのは、専ら、控訴人に育児休業等による長期間の業務上のブランクがあったことと、出産による育児の負担という事情を考慮したものというべきである。
・妊娠する前に控訴人が担っていたB2Cセールス部門におけるチームリーダーの業務は、①チームのターゲット達成に向けた部下のマネジメント(部下のターゲットの進捗状況や営業方法の確認、部下に対する教育及び指導、営業場所の割り振り、シフトの作成、経費の管理、予算の設定等)、②担当営業場所との関係性を強化するための活動(当該営業場所における生産性の高い販売の仕組みの構築等)、③新たな場所での販路の開拓、④チームリーダー会議や本社役員との会議への参加等であり、控訴人も、37人の部下社員を擁する控訴人チームのチームリーダーとして業績を上げていたことは、原判決別紙のとおり、控訴人に多額のコミッションやインセンティブが支給されていたことからも明らかである。
・また、控訴人は、バンド30のセールスエグゼクティブ時代に既に平均して6人の部下を持ち、その実績を評価され、当時の副社長からは女性管理職のロールモデルと言われてチームリーダーまで昇進したものであり、これからの自らのキャリアに対する期待を抱いていた。
ところが、復職した平成28年8月に控訴人が任じられたアカウントマネージャーの業務内容についてみると、一人の部下も付けられず、目標としての契約件数、獲得枚数、売上目標等が示されることもないまま、新規販路の開拓に関する業務を行うこととされ、同年10月からは700件の電話リストを与えられ、優先して取り組むように指示されて同リストを使った電話営業を自ら行っていたにすぎない。そ
うすると、控訴人が復職後に就いたアカウントマネージャーは、妊娠前のチームリーダーと比較すると、その業務の内容面において質が著しく低下し、給与面でも業績連動給が大きく減少するなどの不利益があったほか、何よりも妊娠前まで実績を積み重ねてきた控訴人のキャリア形成に配慮せず、これを損なうものであったといわざるを得ない。