将来の信託財産の自動的な追加について契約の解釈が問題とされた事例
信託フォーラム22号で紹介された裁判例です(横浜地裁令和5年12月15日判決)。
本件は家族信託の事案であり、姉が弟を受託者として信託契約を締結したというものですが、その内容として、姉の全財産を信託財産とするということのほかに、当時存命していた姉の配偶者が死亡して相続が発生した場合のことについても含まれていたことが特色です。
その内容は、「姉の配偶者が死亡して相続が発生して姉が相続人となったときは、弟は、姉に代わって、遺産分割協議を行うことができ、取得する遺産の管理処分権姉のを有する」というものてした。
この条項につき、弟は、相続の開始を条件として、改めて姉の意思表示を要することなく自動的に信託に供する内容であった旨の主張をしました。
しかし、判決は、信託契約書の記載には「信託する」旨の文言がないこと、本件信託契約書が作成されて以降、弟が信託業務を具体的に行なっていたとは認められないこと、姉は、信託契約後、財産を弟に信託していることと整合的とはいえない内容(姉の配偶者が死亡した場合の配偶者の遺産についてその姪に相続させるという内容)の遺言公正証書を作成していることを考慮すると、姉が、将来的に相続により取得する財産について、別途の意思表示を要することなく信託する旨の意思を有していたとは認め難いとして、弟の主張を排斥しています。
なお、仮に将来相続により取得する遺産について「信託する」という文言が含まれた信託契約書を作成していた場合などにおいて、自動的に信託財産として追加されるかどうかについて、信託フォーラムにおいて信託の変更や併合といった法律構成について触れられています。
シンプルに紹介しましたが、本件もご多分に漏れず、成年後見や遺言も絡んで複雑な様相を呈しています(もともと姉の成年後見人が提起しましたが、その後本人が死亡したため遺言執行者が承継したもの)。
家族信託という手法が紹介された相応の時間も経過しましたが、今後、ますます紛争事例を紹介することも多くなりそうです。